産科医・助産医・看護師の方々へ
新ラマーズ法の目的
新ラマーズ法の目的はお産をする母親自身が、ほんとうに産んで良かった、自分で一つのことを成し遂げたという達成感をもてるようなお産であること。
同時に、赤ちゃんを無駄に圧迫しない、弱らせないためにおこなうのです。
この新ラマーズ法に興味のある医師、助産師、看護師の皆様は、まず、古来より東洋に伝えられた行法を分娩に応用したものであることをよく理解していただきたいのです。それでなければよき指導者としての資格は無いと思います。
それを基礎として以下は、より効果的な出産方法を思いつくまま述べます。
私たちは産科という、職人の集団と思っています。
職は頭(理論)と身体(技能)を同時に使います。
頭について、医学の理論とそれを応用して造られた診断、治療機械類で、一部の優秀な人々の努力によって20年、30年前と比べて格段の進歩をとげています。
ただ、私たち一般の医師、医療関係者は、それら学問と共に身体を使って色々な新しい薬品とか機械類を十分に使いこなさなければなりません。しかし、現在、私たちは、身体を使って十分に使いこなすことに遅れをとっているのではないでしょうか。
私たち一般の医療関係者は、たとえていえば、すばらしく成長しつつある樹木の中程にいると思います。そして、のびつつある上の方を仰ぎ見て、何とかしてもう少し上に行きたいと努力しています。
ただ、上を仰ぎ見るばかりでは、幹の最も下の根っこの基礎の部分がおろそかになり弱くなって、幹全体がぐらつくようになります。
そこで、まず、根っこの基礎部分を強く、太くして、次第に上の方に向かうべきと思います。
私は産科医なので、根っこの身体(技能)の使い方について述べます。
昭和の初め頃の教科書に、内診をする人差し指の先に全神経を集中するようにと、指先に眼が描かれている図を見たことがあります。
以下、指先の使い方について述べます。
危ぐとは思いますが、分娩が始まった時点で、外診で胎児の体位、体向を確認しているでしょうか。
また、ある程度子宮口が開大したときから、矢状縫合、大泉門、小泉門の位置を確認しながら経過を見ているでしょうか。
以上のことに注意を怠らなければ、たとえば、第二分類では、大きく回旋しなければならないので、分娩時間が長くなる可能性があると予測したり、第四回旋で胎児の顔面がどちらを向くのか予測できます。
それらのことを確認する習慣を身につけるなら、必ず前方後頭位で娩出させる手技を覚えるようになるはずです。
▷ 胎児の排臨・発露から出生までの手技について
普通、特別な事情がない限り胎児は医療側が手を加えないでも、自然に骨盤誘導線に沿って娩出されます。
しかし、そのとき、力を入れていきむと、胎児は飛び出し、ショック状態になったり、産婦の会陰をはじめ周囲の組織に大きな裂傷が起きる場合があります。
したがって、ラマーズ法で力が抜けておれば、介助者は肛門のあたりを軽く圧迫しておくだけでよく、児頭は自然に後頭の付け根あたりで、恥骨結合の下端を支点として顔面を産婦の腹部の方に仰ぎ見るように娩出します。
その後、児の顔面は分娩開始前と同じ方向に向きます。向きにくいときは、手を添えてゆっくり回します。
このとき、胎児の胸部が骨盤内腔に入って圧迫され鼻腔、口腔内液が排泄されます。
したがってこの間しばらく待つ必要があります。また、顔が上方を向くような分娩体位をとると排泄が不十分になります。
肩甲の娩出は、次の陣痛が来るのを待ち、少しいきみます。
そして前在の肩甲を恥骨結合の下端を支点として産婦の腹部の方に、児の身体を骨盤誘導線と同じ方向に誘導します。
すると、自然に後在の肩甲から先に会陰を滑るようにして娩出します。
介助者は、骨盤誘導線を頭に描きながら、胎児を誘導、支えて行くだけでよくなります。
児頭、肩甲を恥骨結合からはずすという意味で会陰の方に押し下げ引くのは胎児、会陰に負担をかけるので、まずは力を抜かせて、さきに述べた娩出法を試みてはいかがでしょうか。
特に、この時期の娩出は急ぐべきではないと思っています。
以上のことを行うためには、自然に起きるいきみはともかく、それにプラスαの力を加えないこと。(自然の規則正しい子宮収縮に対してプラスαの力を加えないことは分娩全期にわたって必要と思います。)
したがって、如何にうまくいきませるのではなく、如何にうまくいきませない(力を加えない)ように工夫することが大切です。
▷ 鉗子分娩のすすめ
新ラマーズ法は骨盤底筋肉を緩ませるので、胎児に対して無駄な圧迫をかけません。
したがって、胎児は特別な事情がない限り時間がかかっても弱らないのです。
そして、辛抱強く待てば、胎児はほとんどの場合、自然の陣痛で合理的に回旋して生まれます。
ただ、それでも、ときに回旋異常を起こすことがあります。
したがって、回旋異常が起きてからではなく、はじめから胎児が正常に回旋するように誘導することがより多くの産婦を安産に導く近道になります。正常分娩への王道だと思います。
そのことに無関心になれば、胎児の体位、体勢、下がってくれば矢状縫合、小泉門、大泉門の位置の確認を怠る場合がおきます。
そのような場合、回旋異常を放置したまま、下降しない理由で帝王切開をしたり、長時間かかって産婦を苦しめたあげく、後方後頭位で娩出させ、はじめて回旋異常に気づく、など安産とはほど遠い結果をまねいてしまいます。
以上の理由で、いざという時に、回旋にあまり気にしてなくても良い吸引分娩よりも、回旋を必ず確認しなければならない鉗子分娩をおすすめします。
つまり、分娩のはじめから胎児の回旋状態を見極める習慣をつけることが正常分娩に誘導するために必要であり、また、いざというときには確実に適切な位置に鉗子をかけることができるのです。
もちろん、吸引分娩はいかなる場合にも使用できる便利性があり、広く用いられているのは事実です。
しかし、鉗子分娩の方がより確実性があることは周知であり、新たに、児頭を傷つけないように接合部をゆるくした安全な出口鉗子を制作しました。
また、骨盤位経膣分娩で児頭娩出困難のとき、必須の器具になります。
以下、鉗子の形状、使用上の注意をご覧いただき、ご使用を検討ください。
鉗子接合部の改良について
今回、鉗子の接合部に余裕を持たせ、匙の全面が児頭の凸凹に応じて密に接するように工夫しました。
従来の鉗子は、児頭は球形のものとしてそれに適合するように作られています。
しかし、児頭は骨盤内を通るとき、特に、分娩が長引けば、それぞれの骨盤内の形状により圧迫、変形されて、細長く、また凸凹ができてきます。
したがって、図のように鉗子の接合部を削り、児頭の凸凹に応じて、できうる限り鉗子匙の全面が児頭に密に接するようにしました。
この結果、児頭に対して匙の全面に力が平等にかかり、匙の先端の一部が食い込み、傷を作ることがほどんど無くなりました。出生児はその後、鉗子匙の跡が全く不明か、その後数時間少し赤みのかかった跡が残るのみです。
この改良鉗子はトーイツ株式会社より発売しています。
鉗子の使用上の注意
1.出口鉗子であること。
出口鉗子の条件を満たす簡単な目安は、児頭が骨盤底まで下がり、陣痛時、児頭によって恥骨結合内面が触れなくなった時点。
特に、緊急を要する場合は恥骨結合が指先で少し触れる時点でも良いと思います。
2.必ず児頭装着であること。
つまり、鉗子匙を眼窩と耳介の間にかけること。
そのためには、矢状縫合が骨盤縦経に近く、小泉門が恥骨結合に限りなく近づいていなければなりません。
小泉門と大泉門との区別、矢状縫合がわからないときは鉗子を使用してはいけません。
産瘤ができてわからないというのは経験不足です。
3.鉗子の挿入方法については、一般の教科書を参考にしてください。
ただ、矢状縫合が骨盤縦経より少し斜めになっている場合、匙が耳介と眼窩の間に挿入困難な場合がしばしばあります。
そのときは、把握部ではなく、匙の結合部よりのところを第2指で耳介と眼窩の間に向かって顔面を滑らすようにして移動させます。
鉗子を回旋の目的のために使用しないことで、鉗子の形状からして無理です。
回旋異常のときは、第2~3~4指で鉗子を装着できる位置まで回旋させます、低在横定位は言うまでもなく、大泉門が恥骨結合付近にあるときは児背を確認して、どちらの方向に回旋させるかを決めます。
ともかく指で小泉門を恥骨結合に向かって、陣痛時に根気よく回旋させます。
ただ、指先で回旋させるのみで下降、娩出するときもあります。
4.子宮口が全開大後も不正軸のまま児頭が下がってきた場合、鉗子を挿入、2~3度引くと矯正できます。
その後、抜去すると下降が始まることがあります。
5.骨盤誘導線を頭に描きながら、陣痛の極期に3~4秒間、把握部の結合部近くの突起部の根元を第2指と第3指でまたくようにかけ、把握部を手で締め付けないで、片手のみの力で引きます。
そして胎児心拍の変化に注意しながら根気よく少しづつ引いていくことが大切です。
6.鉗子を引く手が痛くなれば、胎児にそれ以上の障害を与えていることになるので、ガーゼなどを巻いて手の感覚を鈍らせることはしないでください。
7.クリステレル圧迫法は暴力だと思います。
陣痛開始後、ある程度時間が経過した子宮壁の状態は外部から知る術もありません。
とくに、鉗子挿入時は外部からの強い圧迫によって、匙が移動し、母児を傷つける恐れがあります。
8.羊水の状態、つまり血液の混入、胎便による混濁などの有無を調べるのに役立ちます。
そのためには、鉗子の一方の葉のみを挿入します。
羊水が少量流出することもあり、また、抜去後、匙の先端に羊水が付着することで判別できます。
9.児頭が約三分の一程度発露した時点で、ゆっくり鉗子を抜去します。
10.骨盤位分娩では、後続児頭娩出困難に備えて、必ず分娩台の横に置き、いつでも使用できるようにしておくことが必要です。
まず、超音波で臀位、臀足位であること。臍帯が腹部臍帯付着部より頭部側にあることを確認の上、経膣分娩をはかります。
臀足位で足先が先進するようであれば足先のみを指で辛抱強く押し上げていると臀部のみが下がってきます。
そして最後は、頚部を強く引っ張るよりも鉗子です。
後続児頭鉗子ほど有り難味を感じるものはありません。
私は、鉗子を引くとき、産婦の目と目を合わせながら、陣痛時、いっしょにフーとはいてウンといきんでもらってます。
▷ 骨盤位経膣分娩について
鉗子分娩の項でもふれましたが、骨盤位経膣分娩を行うための条件について私の考えを述べます。
1.36週以上の満期分娩であること。ただし、子宮内胎児発育不全はのぞきます。
2.臀位か臀足位であること
3.臍帯の位置を確認します。超音波(カラードップラ)で臍帯が胎児臍帯付着部より上方にあること。
とくに、胎児の下肢にまつわりついていないことを見きわめること。
4.産婦は緊張しないで(新ラマーズ法)、決していきまないことが大切です。
5.自然の陣痛で根気よく待てば、子宮頸部の熟化をより期待できます。
たとえ、臀部、あるいは外性器の上皮が剥がれて赤くなっても頭部とちがって分娩後少なくとも3~4日すれば自然に治ってしまいます。
陣痛促進剤は使用しないこと。陣痛を強くすれば臀足位の場合、下肢が先進するときがあります。
ただ、そのようなときには、足先のみを押し上げると臀部が下がってきます。
また、排臨ちかくなって下降しないときは、先進する下肢を恥骨結合の方向に回旋させるとスムースに下降します。
6.胎児の体部はガーゼかタオルでくるみ、引かずに右に回したり左に回したりしているうちに恥骨結合の方に回った上肢がはずれ、また、反対に回すと片方の上肢がはずれます。
両上肢が万歳の姿になるのは陣痛を強くしすぎるか、引きすぎるからです。
7.充分に体部が下がってから、頭部を出します。ホワイトスメリー法が一般的と思います。
ただ、あまり指を深く口の中に入れる必要はなく、指を口に添えて骨盤誘導線にそって静かに引き上げます。
8.このときのみ、助手の人に軽く子宮底を押してもらいます。
頭位分娩で衝撃的に腹部を押す癖のある人に押してもらって頭部が飛び出し、私自身辛い目に会ったことがあります。
9.2~3回引いて出なかったときは、それ以上無理をしないで鉗子を使用します。
助手に胎児の足を持って上方にあげてもらい鉗子をかけます。
うまくかかれば元気な子供が生まれます。
鉗子をかけるまで時間がかかるようであれば会陰切開をして、胎児の鼻、口周辺の分泌物をガーゼで拭きとり、一度呼吸をさせてからおもむろにかけて娩出させます。
以上、条件と注意を守れば骨盤位経膣分娩は成功します。
弛緩性出血ってあるの?
普通、胎盤娩出後、子宮収縮により、胎盤剥離面から少量の出血を見ます。
膣壁、頸官の見えるところ、触れるところには出血創はありません。
それなのに、ときとして、間もなく、子宮口からじわじわ、次第に多くの出血が見られることがあります。
腹部から子宮体部に手を当てると軟らかく、子宮全体が前よりも大きくなっています。
その理由は、子宮体部内の裂傷からの出血が内部に貯留し、子宮収縮を妨げているのだと思います。
結果として、ただ、子宮の収縮が悪いという理由で、点滴に子宮収縮剤、止血剤を入れて子宮を収縮させようとしようとして悪戦苦闘します。
さて、胎盤娩出時の子宮収縮後、しばらくして、子宮の体部が軟らかく、ふわふわしているのに出血がごく少量か、ほとんどなく経過する場合があることをご存知と思います。
それは、胎盤剥離面が早急に修復、止血され、しかも、子宮内に裂傷がなく、その部よりの出血がないからだと思います。
このことから、裂傷の原因である、自然の子宮収縮以外の強い圧力を加えることは反対です。
つまり、強くいきんだり、子宮内圧の管理をしないで子宮収縮剤を多用したり、クリステレル法とかで腹部を強く圧、とくに、衝撃的に力を加えたりすることです。
実に危険です。
もちろん、分娩後の出血には血液疾患、子宮自身のもとからの病変によるものもあると思いますが、裂傷が原因によるものが多いと考えます。
要するに
狭い筒の中を、ぎりぎりの大きさのものを故意に早く通過させるのと、ゆっくり通過させるのとどちらが安全かは明確です。
しかも、筒が軟らかく伸びやすくなればより安全に通過できるはずです。
最後は帝王切開ですが、その前になすべきことが多くあるように思います。