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婦人科専門外来で扱う病状・病気

更年期とセクシュアリティ

更年期には、加齢にともなう精神・身体機能の一般的な変化とともに女性特有な卵巣機能の低下(急激な女性ホルモンの低下)が加わり、セクシュアリティ(全人間的な性)に関する健康問題が生じることがあります。セクシュアリティとは単に性行為をさすのではなくて、精神的、心理的、倫理的側面も包括する広い概念です。更年期・閉経後の女性のセクシュアリティは、本人の身体的・精神的変化に加え、パートナーとの関係を含めた家族や社会とのかかわり方など、多くの要因の影響を受けます。


近年、平均寿命の延長や社会・家庭、夫婦単位の生活の変化に伴い、更年期以降の女性が性行動を単なる生殖のための行動ではなく、個人の生涯を通じた行動として主体的にとらえる傾向にあります。セクシュアリティの問題は時に夫婦関係の破綻や離婚につながったり、精神神経症状を引き起こす原因になることもあります。性の健康を維持するためには、加齢とともに生じる身体の変化を正しく理解し、各自に則した対策をたてることが大切です。今回は更年期に起こる生殖器を中心とした身体的変化を説明します。


閉経による女性ホルモン(エストロゲン)の減少は、膣や外陰粘膜の萎縮、乾燥、菲薄化、また膣分泌液低下につながり、これらの局所的な変化は性交痛や性交障害の一因となります。しかし、性ホルモンの低下のみが性欲や性機能の変化の原因ではありません。膣分泌液は自律神経によっても調節されており、性的な刺激により分泌液が汗をかく形として分泌されるので、精神的要因が自律神経を介して膣分泌液量に影響を与えることも理解いただけると思います。また、閉経後では膣壁の萎縮、乾燥菲薄化により、乾燥状態から湿潤状態への移行に時間が長くかかるため、閉経以前と同様のパターンで性交を行った場合には性交痛を伴うことがあります。良いパートナーシップを経験、学習により健全な性反応サイクルを獲得していた女性でも、膣の老化により性交痛をくり返すと性交痛が強くなり、ひいては性欲も抑制されることがあります。


性交障害の予防には、まずこれら身体的変化に対する女性自身・パートナー双方の十分な理解が必要です。相手を思いやる気持ちが一層大切といえます。薬物療法としては女性ホルモンが膣粘膜や外陰皮膚の萎縮に対する効果や、性交痛への改善作用を有しています。検査を施行し、適応と判断されれば女性ホルモンを使用してもよいでしょう(内服薬と膣錠があります)。漢方療法の中にも有効なものがあります。医薬品ではないのですが、性交時の疼痛に対しては潤滑ゼリーなどの使用を勧めることもあります。また、必要に応じて心理療法・カウンセリングが必要な場合もあります。


性生活に対する男女の認識や行動には差があるため、互いの理解と協調が不可欠です。更年期では特にこのことは大切です。セクシュアリティ(全人間的な性)に関してご質問があれば、どうぞ専門外来でご相談下さい。


神戸大学医学部保健学科教授
林産婦人科 婦人科専門外来担当医
松尾 博哉

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